サテュロス劇とは何か
中務哲郎による「サテュロス劇とは何か」をご紹介いたします。
テキストは『ギリシア悲劇全集別巻 第十二回配本(全十三巻・別巻1)』(岩波書店、1992)にあります。
全体がギリシア悲劇を読み解くに際し役に立つ知識で固められた一冊ですが、その中にサテュロス劇に関する章があるわけです。
サテュロス劇とは何か。
結論だけ言えば「サテュロスがコロス(合唱隊)をつとめる劇であること以外はよくわからん」ということのようです。
それがどのようになぜわからんのか、がじっくりと書かれた文章となっています。
まず「サテュロス(およびシレノス)」自体が何なのかという話。
続いて古代人によるサテュロス劇についての言及。これが人によって言うことがまちまちで全くとらえどころがない。
そしてサテュロス劇の作家たち、ならびに伝わっているサテュロス劇のタイトルの紹介。全集の10〜12巻に断片が載っているものには*がついており、参照しやすくてとてもありがたい。
最後にサテュロス劇の題材や雰囲気から察せられるその特色。
という構成になっています。
サテュロス劇がよくわからんなりに読み取れることは、
・サテュロス劇はサテュロスがコロス(合唱隊)をつとめる劇である
・悲劇にも喜劇にも近いがそのどちらでもない独立した劇である
・完璧な形で現存しているサテュロス劇はエウリピデスの「キュクロープス」のみである(ソポクレスの「イクネウタイ」も大部分が現存)
・ちいちゃい断片だけが残っているものは100個弱くらいある
・サテュロス劇はラテン文学には継承されず、再生の試みもなされずに廃れていった
といったところでしょうか。
さらっとまとめてみましたが、多分この「サテュロス劇とは何か」は日本語で読める中では一番「生きたサテュロス」について詳しいのではないかと思います。
「サテュロス劇はサテュロスが現に生きている社会でしかありえない演劇であり、サテュロスが祭礼などから姿を消すとともにサテュロス劇も滅んでいった」みたいなことが書いてあり、私なんかはもう涙なしには読めません。
「サテュロス」や「シレノス」という言葉の初出や「同じ精霊がアッティカやイオニアではシレノス、ペロポネソス半島ではサテュロスと呼ばれたらしい」など耳寄りな情報が盛りだくさんなんですけど、泣いてしまうのでまともに読めません。困ります。
「サテュロス」の初出はヘシオドス、「シレノス」の初出はアフロディーテー讃歌だそうです。
立派な全集なので、各自治体に1セットずつはあるんじゃないでしょうか。
図書館でぜひ検索してみてください。