今回は自分でもいまいちわかっていない話なのでメモ程度に。
古代ギリシャには「オルペウス教(オルフェウス教)」と呼ばれる宗教があったといいます。
オルペウス教は伝説の詩人オルペウスを開祖とする宗教であり、紀元前7〜6世紀ごろから普及したとされます。
輪廻転生や「邪悪な肉体に神聖な魂が囚われたもの=人間」など、当時にしても変わった教義を説いていたといいます。
本で調べるならば『オルフェウス教 [文庫クセジュ863]』(レナル・ソレル著、脇本由佳訳、白水社、2003)がいいのですが、残念ながらかなり希少な本となっています。
古本市などで万一見つけたらお財布とご相談、図書館にあったら迷わず借りて内容を頭に叩き込むべし。
インターネットでざっと知るならばBarbaroi!さんの「オルペウス作品集」のページ。このたび大変お世話になりました。
現代において得られる当時のオルペウス教の手がかりはいくつかの文献や図像。そんな文献のひとつが「オルペウス讃歌」です。
オルペウス教に則ってのもろもろの神々への呼びかけ……という認識で良いでしょうか。文献自体は後期ヘレニズム時代〜初期ローマ時代(紀元前3世紀ごろ〜紀元後2世紀ごろ)に、おそらく複数の詩人によって編まれたものとされるようです。
その中に、「パーン讃歌」と「シレノス、サテュロスとバッコスの司祭讃歌」があるのです。
というわけでそのふたつを読んでみたいと思います。
オルペウス讃歌は1792年にThomas Taylorによって英語に訳された"The Hyms of Orpheus"がスタンダードなもののようです。(2000年代に入ってからApostolos Athanassakisによる新訳が生まれたとのことですが未読です……)その後入手しましたのでそちらも併せてご覧いただけたらと思います
インターネットは便利なのでTaylor訳は読めます。パーン讃歌からまいりましょう。
英語が古くて勉強してない身には全然読めませんね。
なお先ほどのBarbaroi!さんのページには原文から訳した日本語訳があります(こちらでは11がパーン、Taylor訳にはないヘカテー讃歌が頭にあるので番号がひとつズレている)。ありがたすぎる。無料で利用してしまっていいんだろうか。なお「パーン」のとなりの「[031]」を押すと先ほどのTaylorによるFootnotes部分の翻訳に飛べます(パソコンでクリックすると小さいウインドウがポップアップするのでちょっと戸惑うけど)。ありがたすぎる。
というわけでふたつのサイトを行ったり来たりして読んでいきます。私の文章が読みづらかったらごめんなさい。
まず気になるのはこれを唱える際の焚き物ですね。「Various Odors/多彩な薫き物」とは。ほかの神々がだいたい乳香や没薬などのところに「Various」。いろいろ。見た感じパーンのほかに「Various Odors」が採用されているのはThe Mother of the Gods/神々の母だけです。
まあ全体を通してももう完全に「パーン」という名が「All」と混同されており、「Various Odors」からもそれがうかがえる、という感じがします。
本文はもうとにかくひたすらデカいですねパーンが。そりゃ神を呼び出そうとしてるわけだからどの神だってデカく呼びかけられているんですけど、パーンも例に漏れずデカい。「For all the world is thine」とか言われてますよ。(thineは古い英語でyoursの意味)
でもそれでいて「Goat-footed」でもある。これにより「これパーンって言ってるけど実際に呼んでるのはあのアルカディアのヤギちゃん神とは関係ないもっと偉い神なんじゃないの?」という疑惑が退けられてしまいます。
Taylorによる脚注も興味深いものです。
「パーンはプロートゴノスであり宇宙」とはっきり書いてあります。そう、日本語ウィキペディアのパーンの項目に載ってた「パーンはプロートゴノス」という出典不明の情報はとりあえずThomas Taylorが言ってることには間違いないのです。私は出典がわからなくて10年近く保留にしてた情報だったので、けっこう衝撃を受けました。(※その後「パーンはプロートゴノス」のさらなるソースは前4-3世紀の歴史家ヒエロニュモスによるものと判明)
なおパーンは他の神の讃歌にもちょろっと登場しており、最初のムーサイオス讃歌には「Pan the God of All」と言及され、50番あたりのニュムペー讃歌にはニュムペーたちとともにお山の上でハイテンションになってるパーンの姿が見られます。
気になるのは33番あたりのアポローン讃歌、アポローンが最後の方で「パーン」と呼ばれて角があって葦笛を吹いているっぽいことです。
それパーンでは?Taylorによる解説ではパーンについての言及はされずただアポローンとゼウスが同格であることが強調されているのみなのですが。
つづいてシレノス、サテュロスとバッコスの司祭讃歌
例によってBarbaroi!さんもまた貼らせていただきます(54が該当)
こちらは唱える間に焚くものは乳香。「フランキンセンス」や「オリバナム」とも呼ばれる香りです。無印良品にも売ってます。
けっこう英訳と日本語訳に相違がある気がする……より原文に近いのは日本語訳だと思いますが。
とりあえず、タイトルは長いですが内容はシレノスだけに呼びかけてるように見えますね。バッコスの祭りの先導者としてカッコよく描かれているようです。
脚注は特になし。残念。
とりあえずそんなところで。
今回参考にしたサイトと本を改めて挙げておきますので各々深めてくださいませ。
・『オルペウス作品集』
http://web.kyoto-inet.or.jp/people/tiakio/ancients/orpheus.html (2023/03/24閲覧)
・『Hyms of Orpheus, Thomas Taylor tr. index』
https://www.sacred-texts.com/cla/hoo/index.htm (2023/03/24閲覧)
・『ORPHIC HYMNS 1-40 - Theoi Classical Texts Library』
https://www.theoi.com/Text/OrphicHymns1.html(2023/03/24閲覧)
・『PAN: The Great God's Modern Return』(Paul Robichaud, Reaktion Books, 2021, P41-44)