ピンダロス
西洋古典叢書シリーズが続きますが、今回もそちらからピンダロスの『祝勝歌集/断片選 西洋古典叢書 第Ⅱ期第13回配本』(ピンダロス、内田次信訳、2001、京都大学学術出版会)をご紹介いたします。
ピンダロスは紀元前6〜5世紀のギリシャの詩人。競技会等での勝利を祝うための祝勝歌が多く残っています。解説曰く、あまりに偉大な詩人ゆえ伝記がだいぶ神話じみていて客観的な事実を確認しづらいらしいです。
牧神好きとしては、パーンの最古の記述のひとつがピンダロスによるものであることが見逃せません(ホメーロス風讃歌と並ぶ古さ)。またプルタルコスが「神に愛された人間」の例として「パーンに愛されたピンダロスおよびその詩」を挙げているのも気がかりです。(英雄伝のヌマの項を参照)
そんなピンダロスが残したパーンの記述をまとめておきます。少なくとも本に載っていた分はそう多くはなかったので丸暗記ですね。
・ピュティア祝勝歌集 第三歌
形式から祝勝歌として分類されているものの、内容的にはシラクサの王ヒエロンに宛て病気を見舞う歌であり、実際に祝勝歌かどうかは不明確、とのこと。
「アウクレピオスやアポロンの力であなたが癒されたらいいのだけど、そうはいかないので、せめて生の楽しみを謳歌しましょう」みたいなくだりがあり、その「生の楽しみを謳歌しましょう」的な部分が「私は地母神に祈願します、うちの前でパーンと女の子たちが女神を歌い上げるんです」といった文句とともに書かれています。註には「ピンダロスの家の前にキュベレーのほこらがあったのでは」とありました。
死におびえるよりもパーンみたいに生を楽しもう!みたいなのはウェルギリウスにもありましたね。
・断片「乙女歌集別巻」
パーンと地母神のことを少女の合唱団が歌ったものと推測されるがよくわからない断片、とのこと。
パーンがアルカディアの守護者、地母神の従者として呼びかけられています。「楽しい神」と言われていてかわいい。
・断片201
直接パーンが語られているわけではないのですが、「エジプトのメンデスで雄山羊が女と交合する」という記述があります。脚注にこの雄山羊はパーンの化身であり、聖婚儀式であろうとあります。
以上でした。
最古のパーンのイメージは「生の喜びを体現(エロ含む)」という感じで読み取れます。すでにけっこう固まってますね。
ただ「地母神の従者」というのはあまり印象が無かったので意外かも。