サテュロス、パーン、牧神、牧羊神、半獣神、ほか

サテュロスやパーンの事典のようなブログにしたいと思っています

サテュロス または 神にされた森の精

ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテによる戯曲「サテュロス または 神にされた森の精(Satyros, oder der vergötterte Waldteufel)」をご紹介いたします。

 

ゲーテは言わずと知れたドイツの大作家です。代表作は『若きウェルテルの悩み』『ファウスト』でしょうか。

サテュロス または 神にされた森の精」は1773年、ゲーテ24歳の筆による戯曲となっています。テキストは『ゲーテ全集 4 新装普及版』(「サテュロス」は今井道児訳、潮出版社、2003)によりました。

 

おはなしはこんな感じ

 

とある人里離れた隠者の家のそばに、怪我をしたサテュロスが現れます。

隠者は気の毒がって介抱してあげますが、サテュロスは家の粗末さに悪態をつき、隠者が家を離れた隙に布と祈祷台の神の像を奪って逃げてしまいます。

家を出たサテュロスはハッタリめいた説教文句で道ゆく村人たちを次々と虜にしてしまい、預言者として祀りあげられるまでに。

戻ってきた隠者はびっくり仰天、サテュロスの無礼ぶりを非難すると、村人たちは怒って隠者を殺してしまうことにしました。なんということを。

しかし隠者と同じくサテュロスに反感を持っていた婦人が機転をきかせ、サテュロスをハニートラップ的な罠にかけます。サテュロスの荒々しい獣としての側面を目の当たりにした村人たちは手のひら返してサテュロスを糾弾、サテュロスは村を追い出されてしまうのでした。

 

エルンスト・カッシーラーによるゲーテ関連の講義集(『ゲーテとドイツ精神史:講義・講演集より』エルンスト・カッシーラー著、田中亮平・森淑仁編訳、知泉書院、2020)のなかにこの「サテュロス」についての記述がちょろっとありましたので読んでみましたところ、この「サテュロス」は、

「ハンス・ザックスの謝肉祭劇の形式を借りた風刺劇」

「当時異常に膨れ上がっていたルソー運動でたびたび目にされた、怪しく煽動的な山師たちを弾劾している」

とのことです。またしばしば言われるサテュロスゲーテの師匠のヨハン・ゴットフリート・ヘルダー説に関して、カッシーラーは強めに否定してることも一応。私もそうしたことは簡単にイコールで結べるもんではないだろうと思います。

 

サテュロス好きの私は「勝手に持ち上げて勝手に失望して人間どもは雑だな!人間絶滅しろ!サテュロスは胡散臭い山師のメタファー?知らん私は山に行く!!」という感想になってしまうわけですが、ドタバタな展開が愛らしいのは確かな事実。特に信者になった村人たちがみんなでサテュロスの言う通りに生の栗をリスのようにかじっているシーンなんかがかわいいです。

踊るサテュロスとその来日

「踊るサテュロス(The Dancing Satyr of Mazara del Vallo)」と呼ばれる彫像のお話をいたしましょう。

今回の記事はおもに『特別展「踊るサテュロス」カタログ』(読売新聞社、2005)を参考にしつつ執筆してまいります。なので情報がちょっと古いかも

またリンクをいっぱい貼りましたが、広告とごっちゃになって見づらかったらごめんなさい。心眼で見極めてください。

 

 

踊るサテュロスは1998年、イタリアはシチリア島チュニジアはボン岬の間の海峡にて発見されたブロンズ像です。高さは143cm、重さは120kg。

2000年以上海中に沈んでいたサテュロスは破損の度合いが大きく、両腕や右足などが失われています。

 

見た目はこんな感じ

commons.wikimedia.org

 

ぐるっと一周

www.youtube.com

 

一度見たら忘れられないこの躍動感。身体を大きくねじり髪を振り乱して踊っています。

背中にある穴はかつてはしっぽが嵌められていたようです。また類似ポーズのカメオから、失われた手には右にテュルソス、左にヒョウの毛皮があったのではと考えられています。

 

類似のカメオ、たぶんこれ

https://www.bridgemanimages.com/en/noartistknown/satyre-dansant-camee-en-agathe-et-onyx-1er-siecle-av-jc-3-6x2-8cm-n041-inv-25873-museo-nazionale/nomedium/asset/5471563

 

この像の制作年代はローマ期なのか?ヘレニズム期ギリシャなのか?そもそもこの像はオリジナルなのか?レプリカなのか?作者は誰か?材質などの特徴はどれも決め手に欠け、いつどこからやってきたのかまったく謎のサテュロスとなっている模様です。

しかしそんなミステリアスさもまた像の魅力を倍加しているようですね。

 

現在はシチリアの踊るサテュロス博物館にて展示されています。いつか行ってみたい。

www.e-borghi.com

 

そんな踊るサテュロス、なんと一度日本に来たことがあります。

ときは2005年、「愛・地球博」でおなじみの2005年日本国際博覧会のことでありました。

あまりにも脆いのでたぶん来日は最初で最後。やってきてくれたサテュロスは万博イタリア館の目玉の展示品となりました。

 

今もちょろっと残っている当時のサイト。サテュロスの旅見てえよ!

www.expo2005.or.jp

サテュロスは直径9mの球体の中に展示され撮影は不可だったとのこと。しかし傍に小型のレプリカが展示されていて、こちらはおさわり自由だったようです。

 

愛知に先んじて開催された東京国立博物館での展示を見た方のブログ、トーハクでも触れるレプリカがあったことがわかります。

https://katuk15.exblog.jp/1749516/

 

当時の個人ブログやサイトを見ていると「サテュロスよりも一緒に来てた全部チョコレートでできた車の方が耳目を集めてた」なんて話があったりして悲しいんですけども、目玉は目玉。会場では踊るサテュロスポストカードやピンバッジなどが売られていたようです。それぞれフリマサイトでたまに出品されていますね。

 

ところで愛・地球博のイタリア館に併設されていた「カフェ・トリノ」は万博終了後に名古屋のブライダル会社に買い取られて移築され、現在は結婚披露宴会場となっているとのことですが、

現在その披露宴会場としての名前は「サテュロス」なのだそうです。パノラマビューでぐりぐり見ると奥に踊るサテュロスの写真が架かっているのが見えますね。

i-wedding.jp

 

 

 

おわり。

 

ちなみに東京国立博物館での展示に関しては、トーハクのサイトで「踊るサテュロス」で検索すると当時のプレスリリースや関連イベント案内が出てきてたのしいです。当時の私はサテュロスのサの字も知らなかったけど、今くらいの熱量があったら狂って通い詰めて家が破産していたかもしれない。そう思うと当時知らなくてよかった。

https://www.tnm.jp/modules/r_free_page/index.php?q=%E8%B8%8A%E3%82%8B%E3%82%B5%E3%83%86%E3%83%A5%E3%83%AD%E3%82%B9&sa=&id=1&cx=011056279330014035578%3Ac6k9zsuntru&cof=FORID%3A11&ie=UTF-8&id=1&hl=ja