サテュロス、パーン、牧神、牧羊神、半獣神、ほか

サテュロスやパーンの事典のようなブログにしたいと思っています

耳の聞こえぬ森の神サテュロス

ルベン・ダリオによる短編「耳の聞こえぬ森の神サテュロス」をご紹介いたします。

 

作者ルベン・ダリオはニカラグアの国民的詩人。「ラテンアメリカモダニズム文学の父」と呼ばれもするようです。詩人ですが散文や小説も数多く発表しています。

また意外な国からサテュロスが来たもんだな!とびっくりしましたが、フランス象徴派などから強く影響を受けているようで、こうしたギリシャ神話なモチーフもそうしたところからの影響なのかな、とうかがえます。

「耳の聞こえぬ森の神サテュロス」は1888年の作。テキストは『青…-アスール-』(渡邊尚人訳、文芸社、2005)によりました。

 

おはなしはざっくり言えばオルフェウスの神話の変形。

むかーしむかし、大いなる神々によって「森はおまえのものだ」と祝福されたサテュロスがおりました。

サテュロスはあるとき太陽神アポロンにいたずらをし、そのために耳を聞こえなくされてしまいました。しかし目に映る景色はたのしいものばかりなので、あんまり困りもせず暮らしていたといいます。耳が必要な時はお供のロバとヒバリに頼っていました。

あるとき、サテュロスの森に詩人オルフェウスがやってきます。オルフェウスはあいさつとして竪琴と歌を披露。森の仲間たちはみんな踊るのをやめ、うっとりと聞き入りました。

サテュロスはなにも聞こえないので何が起こっているのかわかりません。お供のロバとヒバリも要領を得ません。ヒバリなんてオルフェウスの竪琴につられて歌で伝えようとしてくるからやっぱりサテュロスには聞こえない始末。

腹を立てたサテュロスは、森への滞在を乞うオルフェウスをつっぱねて追い払ってしまいました。

オルフェウスは悲しみのあまり自殺しようかと思いましたが、森を出る道中で美しきニンフのエウリュディケと出会いましたとさ。

 

その後のオルフェウスとエウリュディケを待つ運命を思うとほろ苦い物語ですが、大事なのは筋よりも描写です。さすが詩人というほかない美しさ。そればっかりは読んでいただかなければ伝わりません。

サテュロスのキャラクターも尊大かつ無邪気で大変可愛らしくございました。