サテュロス、パーン、牧神、牧羊神、半獣神、ほか

サテュロスやパーンの事典のようなブログにしたいと思っています

オルペウス讃歌-パーン讃歌(AthanassakisとWolkowによる)

以前行き当たりばったりなオルペウス讃歌に関する記事を書きましたが、

satyrshouse.hatenablog.com

こちらに出てきた「Apostolos Athanassakisによる新訳」を運良く入手しましたので、パーン讃歌からざっと見ていきたいと思います。

"The Orphic Hyms"(Apostolos N. Athanassakis and Benjamin M. Wolkow, Johns Hopkins University Press, 2013)という本が原本です。

 

まずは讃歌自体の訳から……英語からの重訳ですしズブの素人の手によるものなのであんまり有用ではないと思いますが……

 

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パーン讃歌

(お香:いろいろ)

私はパーンを呼ぶ、田園の神を。

私は宇宙を呼ぶ。

空の上を。大地を。

万物の女王を。

私は不滅の炎をも呼ぶ。

これらすべてはパーンのものである。

おいでください、祝福されしたのしいかた。

季節の眠ることのない友。

ヤギの脚の、騒がしく、

狂を愛し、星々も愛する、

ふざけたしらべの紡ぎ手。

天球の歌。

あなたは死すべきものどもの心に

恐ろしき夢をよびこむ。

あなたは山羊飼と牛飼の

噴き出る泉に喜ぶ。

あなたはニュムペーと踊る。

あなたは目敏い狩人。エコーの恋人。

あなたはあらゆる生長のなかにいる。

すべての父なるもの。多くの名を持つ神。

光をもたらす宇宙の主。

パイアーンをもたらすもの。

洞窟を愛する怒れるもの。

角もつさまざまなゼウス。

大地の果てなき平原は

あなたによるもの。

止まることなく海から深く流れる河は

あなたのもとへ。

大地をとりまくオケアノスは

渦潮であなたへの道を作る。

われらの呼吸する大気は

あらゆる生命を燃やす。

重みのない炎の大いなる眼は

われらの上にある。

それらすべてのものが道を開ける、

あなたの命とあらば。

あなたのことわりはすべての自然を変える。

果てなき大地の上で、

あなたは人間に糧を与える。

おいでください、騒がしいのがお好きな、魂もつひと。

この神酒のなかへ。

わたしの生を良き終わりへつれていって。

あなたの狂気をください、パーンよ、

この大地の果てまで。

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つづいて注釈をかいつまんで。

94ページより始まるパーンに関するノートは、まずはパーンの性質について書かれています。

アルカディアの山や森の神で洞窟で信仰され、のちには悪魔の姿と重ねられたとか、マラトンの戦いを機にアテナイで信仰が広がった(ヘロドトス)とか、両親は諸説あって結局誰と誰なのかはっきりとはわからないとか、パニックという言葉の元になったとか。プルタルコスの「大いなるパーンは死せり」についても書いてあります。

それからオルフェウス讃歌におけるパーンの印象について。

オルフェウス讃歌におけるパーンは繰り返し「全世界」っぽさ("cosmic")が強調されているといいます。ヒエロニュモスによる古註では「プロトゴノス=ゼウス=パーン」という指摘がされているとのこと。後半で「パイアーン」がパーンに対して使われているのもその辺と関係があるのかも〜といったことも書かれています。(プロトゴノス=パーンの裏付けの裏付けが取れたみたいで私は嬉しい)

同じようにパーンを宇宙っぽく書いてる文献としてセルウィウスによるウェルギリウスの注釈書も紹介されており、そちらでは「パーンの曲がった牧杖は巡り来る季節を表す」とか「パーンの7本の葦からなる笛は天球の音楽を奏でている」といったことが書いてあるようです。

また、「すべて」を意味する「パーン」とアルカディアの牧神パーンはホメーロス風讃歌の時点で既に混同されている……というのはもちろん、推察される真の語源はギリシャ語における"pasomai"(得る)やラテン語における"pascor"(餌を与える)ではないか、という記述もありました。

 

そのうちシレノス讃歌も訳してみます。