パーン讃歌に引き続き、今度はオルペウス讃歌第54番の「シレノス、サテュロスとバッケー讃歌」をざっと読みたいと思います。"The Orphic Hyms"(Apostolos N. Athanassakis and Benjamin M. Wolkow, Johns Hopkins University Press, 2013)という本が原本です。
今回もまずは讃歌自体の訳から。
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シレノス、サテュロスとバッケー讃歌
(お香:乳香の粉末)
お聞きください、バッコスの養父、
父にして教師、
シレノイの長、
2年毎の祭にてすべての神々、すべての死すべき人間から敬われる方、
田園の者たちの、純にして大いなる指導者、
眠ることのない酔客、
帯を締める乳母たちの同行者、
キヅタを戴く
ナイヤードとバッカンテの先導者、
すべての半人半獣のサテュロスを連れ、
バッコスの神を讃えながらやってくる。
バッカンテは聖なる連祷を捧げながら、
レナイアの行進に付き従う。
松明の儀式も明らかに、
叫ぶ者、テュルソスを愛し、
狂宴のなかに安らぎを見出す者。
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「2年毎の祭」は『バッカイ バッコスに憑かれた女たち』(エウリーピデース著、逸身喜一郎訳、岩波書店、2013)にてそのような記述があったのでそれに倣いました。英語だと"triennial feasts"なんですけど、2年毎=2年おきに=3年に1度って感じですかね。実際にそうしたディオニュソスを讃えるお祭りがあったみたいで、オルペウス讃歌にも52番に"To the God of Triennial Feasts"という題のディオニュソス讃歌があります。
"fair-girt"がどう訳したものかわからないんですが、「帯を締める」にしておきました。
「レナイア」はディオニュソスの別名です。
では注釈をなんとなく読んでいきます。
まずはシレノスとサテュロスのざっくりとした説明。元はシレノスとサテュロスは同じものだっただろうけど早い段階でごっちゃになったらしいとか、シレノスの初出はフランソワの壺でサテュロスの初出はヘシオドスだとか、彼らはおおむねヒトだけどウマのしっぽがあって蹄があって〜とか、神話における登場はたいがいディオニュソスがらみだとか。
主要な神話としてミダス王とマルシュアスが紹介されているほかサテュロス劇の説明もあり、1990年のLissarragueによる「サテュロス劇のつくりかた:1、神話を用意します。2、サテュロスを加えます。3、結果を見守ります。」という鬼かわいい見解が引用されています。かわいい。
そして「シレノスやサテュロスはオルペウス教においてはほぼ完全に無視されている」という指摘がされており、その理由として「宇宙的で謎めいたオルペウス教において彼らの魂が明るすぎる("light-hearted nature")からでは」といった考察がされています。きゅん。
それから讃歌そのものに対する補足。
シレノスがディオニュソスの養父という話は種々の壺絵やサテュロス劇の「キュクロプス」などで示されておりなにかとケイロンとの類似がみとめられるとか、シレノスやサテュロスはしばしばディオニュソスの最初の信徒として描かれ、ディオニュソスの秘儀を新たな信徒に授けてくれるなど。
なんかおもしろそうだけど英語が難しくてよくわかんなくなりました。(アホ)