サテュロス、パーン、牧神、牧羊神、半獣神、ほか

サテュロスやパーンの事典のようなブログにしたいと思っています

サテュロスとパーンの違い、見分け方について

こうしたページを作ったことがあったんですが、散漫な読書案内という感じであんまり役に立たないように思われるので、改めて「サテュロスとパーン(パン)の違い」について書いてみようかと思います。

わたくし自身の考えは「むやみに見分けようとしなくていいんじゃないの」というものなんですが、まあそうはいっても「サテュロスとパーンって何が違うの」という人はよく見ますので。

 

まずはサテュロスとパーンの出自の違いについておさらいしておきましょう。

個々の詳しい事典的説明はtheoi projectの訳をご参照いただきたいですが(サテュロスはこちらパーンはこちら)、

サテュロスは明確にどこということもない山の精霊、ディオニュソスの眷属として描かれることが多い

・パーンはアルカディアの牧畜・狩猟の神

ということが言えると思います。

サテュロスは複数いてパーンは単一の神」とつい言ってしまうことがあるんですが、パーンも「ディオニュシアカ」なんかで「パネス」という複数いる種族として描かれることもあり、一概に「パーンはひとりしかいない」とは言い切れないところがあります。

サテュロスサテュロス劇という演劇様式で大きくフィーチャーされているので、人間たちにとって心理的により近かったのはサテュロスなのかなあという気はします。

 

なお文献に初めて登場するのは、サテュロスはヘシオドス(紀元前700年ごろ?)などで、パーンはピンダロス(紀元前500年ごろ?)などです。たぶん。違ったらごめんなさい。

さらについでに言うと前者はネガティブな印象(「怠惰で無能」)で語られており、後者はポジティブな印象(「楽しい神」)で語られています。

 

 

では彼らの見た目の違いについてみてまいりましょう。

超〜ざっくりと、「壺絵などの特徴」「それ以外の表象における特徴」で分けて考えてみます。

 

ということでまずは壺絵などにおける両者の違い。

ギリシャの壺絵などをみているときに上のような人物がいましたら、それはサテュロスです。

当てはまりがちな特徴としては「人の顔に尖った耳」「足は人間」「しっぽがある」この3点。これが揃ってたらまあサテュロスと言って差し支えないでしょう。

ディオニュソスのそばにいる」「テュルソス(ディオニュソスの杖、松ぼっくりが先端についている)を持っている」などが加わる場合もあります。

 

 

壺絵で上のような人物がいましたら、それはパーンです。

大きな特徴としては「頭が山羊」ですね。壺絵におけるサテュロスとの大きな違いです。

 

 

またパーンに関してはこういう姿の壺絵もあります。ツノは生えてるけど基本的に下半身だけ獣。いわゆる「半獣神」な見た目ですね。

 

実物の写真が見たい方は「satyr greek pottery」や「pan greek pottery」などで画像検索してみてください。

 

ところで両者共によく「常時男根が勃起している」と語られることがありますが、勃起してない図像もたくさんあります。勃起してないからこいつは違うみたいなことはありません。よく覚えておいてください。(半ギレ)

 

 

つづいて「壺絵とかじゃないその他の表象」における違いについて。

 

 

確実にサテュロスだ、と言える特徴は上のような感じと思われます。

「テュルソスを持っている」「アウロス(二股の笛)を持っている」「ヒョウの皮やキヅタやぶどうを身にまとっている」というあたりでしょうか。

より「ディオニュソスっぽさ」があったらサテュロスである可能性が高いと思います。「バッカナール(ディオニュソスの宴)」みたいなタイトルでわちゃわちゃしてる複数人の半獣のひとびとがいたらそれも多分サテュロスです。

ただまあ……パーンもディオニュソスとは関わりの深い神なので、「パーンがたまたまディオニュソス信徒の格好をしている」というシチュエーションなどを提示されたらもうお手上げですね。現にバーン=ジョーンズによる「Pan and Psyche」という絵はパーンの髪にキヅタとぶどうらしきものが絡んでいます。

panssatyrsfauns.hatenablog.jp

 

またフィリッポ・ラウリによる「A Bacchanal, with offerings strewn around a statue of Pan」という、パーンの像の前でバッカナールが展開されている作品もあります。

panssatyrsfauns.hatenablog.jp

もう何が何だか。

 

 

一方確実にパーンだと言える特徴は上のような感じ。

「牧杖を持っている」「シュリンクス(複数の管をつないだ葦笛)を持っている」「松の冠をかぶっている」というあたりです。これらをいっぺんにサテュロスが身につけることは無いと思います。シュリンクスはけっこうどっちも持ってますが……

panssatyrsfauns.hatenablog.jp

 

またパーンはサテュロスに比べて神話のエピソードが多いため、画題によってはそれだけでパーンとわかることもあります。「女性を追いかけながら背の高い草を抱いている(シュリンクスの神話)」「女性に向かって羊毛を差し出している(セレネの神話)」「川辺でしょんぼりした女性となにか話している(プシュケの神話)」などが確認できたらそれはパーンでしょう。

 

 

ではこれといって特徴が無い半獣のひとがいたらどうしましょうか。

その作品のタイトルで判断してください。先ほど挙げた特徴で考えて違うような気がしてもタイトルに従う方が確実です。

しかしタイトルが「Faun」だったりでどちらとも言えなかったらどうしましょう。

もう見分けはつきません。諦めてください。

 

そして見分けがつかない図像がめちゃくちゃ多いのです。

 

まあ全員かわいいからなんでもいっか!!

 

 

じゃあ彼らと「フォーン/ファウヌス」とはどう違うのか?

……また今度ね…………

 

 

後々見返して違和感あったらその都度加筆修正

(加筆修正の記録:2023/05/30)