サテュロス、パーン、牧神、牧羊神、半獣神、ほか

サテュロスやパーンの事典のようなブログにしたいと思っています

パーンとは(Theoi Projectより)

サテュロスとパーンなど」と名乗ってるんだからパーンの方もちゃんと書いておいた方がよかろう。というわけでサテュロスに引き続きTheoi Projectのパーンの項目(ENCICROPEDIA部分まで)の翻訳です。

長いのは仕方ないとしてもかなりお粗末な訳になっている自覚があるので、各々適宜原文に当たりつつご理解をお深めください……

 

出典

PAN - Greek God of Shepherds, Hunters & the Wilds (Roman Faunus)

(2022/06/01閲覧)

 

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パーン

 パーンは牧羊、狩猟、牧草地、森、山の神である。パーンの存在感は、その領域を横切るものにパニックをもたらした。

 パーンはアルカディアの原野で、パンパイプを吹いたりニンフを追いかけたりしてのんびり暮らしていた。ニンフのひとりにはピテュスというものがいる。彼女はパーンの求愛から逃げ、松の木となった。松はパーンの聖樹である。

 ほかにはシュリンクスというニンフもいた。彼女はパーンから逃げ出して葦の茂みになり、パーンはここからパンパイプを作った。

 エコーというニンフもいた。彼女はパーンを拒絶したために呪いをかけられ、その姿は消え、ただ山でのパーンの声を繰り返すだけのこだまとなった。

 

 パーンの姿は、ヤギの角・脚・尻尾を持ち、あごひげをたくわえ、獅子鼻で、耳の尖った男性として表される。彼はしばしばディオニュソス率いる一団の中に現れる。

 

 古代、ギリシャの人々は彼の名前を「すべて」を意味する「Pan」と関連づけた。しかし実際の語源は、古いアルカディアの言葉で「素朴」「ひなびた」といった意味のものである。

 

 パーンは他のひなびた神々と同一視された。アリスタイオス(北部ギリシャの牧羊の神、パーンの二つ名でもある「アグレウス(狩人の)」「ノミオス(牧人の)」を冠する)、マルシュアス(アポロンとの音楽対決に挑戦したフリギアの笛吹きサテュロス)、アイギパーン(山羊座で知られる半分魚の山羊の神)、などである。

 時にパーンは増殖し、パネスという大勢の種族になったり、アグレウス、ノミオス、フォルバスという名の3柱の神になったりした。

 

パーンの家族(諸説)

パーンの親

・ヘルメスとドリュオプスの娘

・ヘルメスとティンブリス

・ヘルメスとペーネロペー

・ヘルメス

・ヘルメスとソセー

・ヘルメスとカリスト

・ヘルメスとオルネイオス

パーンの子

・12人のパネス

・クロトス(母エウペーメー)

・アキス(母シュマイティス)

・エウリュメドン

・クレナイオス(母イスメニス)

・イユンクス(母エコー)

・セイレノス(母メリアー)

 

事典的解説

 パーンはギリシャにおける、家畜たちと牧羊の大神である。その名前はおそらく動詞paô(ラテン語pasco、「養う」の意味)と関連づけられ、パーンという神の性質と完璧に合致している。のちにパーンは「ト・パーン」、すなわち全宇宙と等しいと考えられたが、ここではそれについて考慮することはできない。

 彼はヘルメスの息子とみなされる。母親はドリュオプスの娘(ホメロス風讃歌)、カリストー(伝テオクリトス)、オエネイスもしくはティンブリス(アポロドーロス)、ペーネロペー(ヘシオドス、伝テオクリトス、Serv. ad Aenはわからん、ヘルメスが羊の姿になって訪れたという)。またペーネロペーオデュッセウスの子説やペーネロペーとその求婚者の誰かという説もある(伝ウェルギリウス、Schol. ad Lycophわからん、伝テオクリトス)。またアイテールの息子説もあり、その場合母親はオエネイスもしくはネレイスである。ほかウラヌスとガイアの息子という説もある(伝テオクリトス、Schol. ad Lycoph)。クロノスの孫という説においては彼はクロニオスと呼ばれる(エウリピデス)。

 パーンは生まれた時には完全に成熟しており、その後も同じ姿をしていた。すなわち角、あごひげ、獅子鼻、尻尾、体毛で覆われたヤギの脚をもつ姿である。このために彼の母親は恐怖を覚え逃げ出した。しかしヘルメスは彼をオリンポスへ連れて行き、すべての(pantes)神々、特にディオニュソスがパーンの誕生を喜んだ(ホメロス風讃歌、ほかにも文献が続いてるけど読めない)。パーンはニンフたちによって育てられた(パウサニアス)。

 

 パーン信仰がされていた土地はアルカディアだが、後にその名前と信仰はギリシャの他の地にも広まった。アテナイにおけるパーン信仰は、マラトンの戦いまでは紹介されることがなかった(パウサニアス、ウェルギリウスピンダロス、Boeckhわからん、ヘロドトス)。

 アルカディアでのパーンは森、牧草地、家畜たち、牧羊の神であり、洞窟で暮らしていた(エウリピデスオウィディウス)。また岩山の頂をめぐり、谷間ではニンフたちを追いかけたりダンスしたりしていた(アイスキュロスホメロス風讃歌、パウサニアス)。

 家畜と野生動物両方の神として、彼らを増やし守ることがパーンのつとめであった(ホメロス風讃歌、パウサニアス、オウィディウスウェルギリウス)。しかし彼は狩猟の神でもあり、狩人たちは獲物をパーン(狩を妨げる可能性もある神)の恩恵と考えた(Hesychわからん)。アルカディアの狩人たちは、狩に失敗した際にはパーンの像を折檻した(テオクリトス)。

 真昼の熱気の中でパーンはよくうたたねをした。これを妨げられると彼は激怒した。(テオクリトス)

 パーンは家畜たちの神であるため、ミツバチや港もその保護下にあった。(テオクリトス、Anthol. Palatわからん)。

 パーンのすべては素朴な田舎暮らしと関連づけられた。彼は音楽を好み、シュリンクスや牧羊の笛を発明して見事に演奏した。また彼は他人にこれを教えることもあり、ダフニスは彼の生徒であった。(ホメロス風讃歌、テオクリトス、Anthol. Palat、ウェルギリウス)

 パーンはピンダロスの詩を愛し、その詩に歌い踊った。そのお返しに、ピンダロスは家の前にパーンの聖所を建てた(ピンダロスプルタルコス)。

 森に住む他の神々と同じように、パーンは突然の恐怖を引き起こし、旅人たちに恐れられた(エウリピデス)。アテナイ人フィリッピデスが、ペルシアとの戦いにおいてパーンに助けを乞うべくスパルタに送られたとき、パーンは彼に呼びかけ、アテナイがパーンに信仰を捧げるならばペルシア人たちを恐怖に陥れると約束した(ヘシオドス、パウサニアス)。彼は恐ろしい声を持っているといわれ(Val. Flaccわからん)、その声は神々の戦いに置いてティタン神族を恐れさせた(エラトステネス)。こうした特徴、すなわち騒音と騒動が、パーンをキュベレーディオニュソスの助手や仲間たらしめたようである。(ここの参照元ぜんぶわからん)

 パーンはまた予言の力を持つとも信じられており、これをアポロンに教えたという(アポロドーロス)。

 森をうろつくうち、パーンはエコー、もしくはペイトーと恋に落ち、娘としてイユンクスが生まれた。パーンのシュリンクス(のちに笛の名前にもなった)との恋物語は『変身物語』によってよく知られている(オウィディウス、あとわからん)

 モミの木はパーンの聖樹であり、元はピテュスというニンフであった。彼女はパーンに愛され、モミの木に姿を変えた。そのほかパーンに捧げられるものとして考えられたのは、雌牛、雄羊、仔羊、牛乳、蜂蜜であった(テオクリトス、あとわからん)。それらの供物は同時にディオニュソスとニンフにも捧げられた(パウサニアス、あとわからん)。

 詩のなかでパーンに寄せられた様々な二つ名は、パーンの特異な外観や彼が崇拝された土地に由来している。パーンの聖所や神殿が頻繁に言及された場所は主にアルカディアであったが、そのほかヘライアではリュコスラ近くのノミアの丘、パルテニウス山、メガロポリスではアカセシウム近く(ここでは神殿で永遠の火が燃え、またニンフのエラトーを巫女とする信託があった)、トロイゼンではアルゴスとテゲアの間のエレシヌスの井戸、シキュオンではオロプス、アテナイではマラトン近く、プシュタレイア島、パルナソス山近くのコリュシアンの洞窟(以上パウサニアス)、テッサリアのホマラにあるとされた。(テオクリトス)

 

 ローマ人たちはパーンを、彼らの神イヌウスやファウヌスと同一視した。複数形態(パネス)やヤギ脚の半獣生物についてはサテュロスの項も参照のこと。

 芸術作品においてパーンは艶かしく官能的に表象された。その姿は角、獅子鼻、ヤギの脚を持ち、時には踊り、また時にはシュリンクスを吹いている。

 

Source: Dictionary of Greek and Roman Biography and Mythology.

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註というか感想というか

 

・おおまかに何の話をしているかはわかるんですけど、参照元の文献が知らないものばかりで……カッコ内がボロボロでごめんなさい。原文から参照お願いします。

 

・今さらですけど、phを「パ」で読んだり「ファ」で読んだり、音を伸ばしたり伸ばさなかったり、そのときどきのフィーリングでやってるので統一感が無いです。気持ち悪かったらごめんなさい。やる気出た時に統一します。

 

シュリンクス/パンパイプというのはこういう笛です。(これは正確にはシュリンクスじゃなくてサンポーニャシュリンクスはこういう2段にはなってないと思う)

葦を並べて作られた素朴な笛です。私が持ってるのは雑貨屋で買ったおもちゃみたいなものですが、ちゃんとしたやつはでかいです。

 

・パーンの名前の由来について「古いアルカディアの言葉でrusticを意味する」と「動詞paôと関連づけられる」とふたつ書いてありますね。どっちがどうなんでしょうね。

 

アリスタイオスやマルシュアスなど、サテュロスの項にも登場した名前が散見されます。パーンとサテュロスはごっちゃになっているということがよくわかりました。

 

・「3柱まとめてひとつの呼び名」というのはギリシャ神話ではたまに見られるものです。ステンノーとエウリュアレーとメデューサを合わせて「ゴルゴーン」とか、エライスとスペルモーとオイノーで「オイノトロポイ」とか。サテュロスの項にも、マロンとレネウスとアストライオスで「シレノイ」というのがありましたね。

たぶんこういうことではないんだと思う

 

・「ト・パーン」と等しいと考えられた、というのはたぶんストア派哲学の話と思われます。白水社の『オルフェウス教』にそんな話がありました。それがなんやかんやあってプルタルコスの伝える「大いなるパーンは死せり」という話になっていったりするようなんですが、Theoi Projectではそのパーンの話はしないよ、ということでしょう。そのパーンの話も聞きたかったな。

 

・「アルカディアの狩人たちは狩に失敗した際にはパーンの像を折檻した」という話はロバート・グレーヴズも言ってた覚えがあります。グレーヴズの言うことは眉毛に唾をつけて聞こうと思っていたんですが、ちゃんと裏付けっぽいのがありました。

 

・パーンの聖樹ならびにピテュスが変身したのは「fir-tree(モミの木)」って書いてありますね。ずっと松だと思っていました。モミの木も松の仲間ではありますが、印象がけっこう変わりますね……でも検索してるとやっぱり「pine tree」って書いてるページもあるな。どうなんだ。あ?よく見たらTheoi Projectも一番最初にピテュスのこと「moutain-pine」って書いてるじゃん!なんなのよ!

 

・地名がいっぱい出てきましたが私は地理関係に全く明るくなく、カタカナ表記としてこれで合ってるのかもよくわかりません。ごめんなさい。

 

ENCYCROPEDIAより下には例によって文献からの抜粋がありますが、例によって割愛させていただきます。全然知らないパーン讃歌とかあるっぽいから読まなきゃな……そしてやはりノンノスのディオニュソス譚が頻出してますね。読まなきゃだよな……今回の文章量程度で長い長いと悲鳴を上げていた私だが……

 

 

 

おまけ パーンの二つ名集(cult titles、epithets)

cult titleやepithetsというのは「その神をあらわす言葉」と私はとらえています。アポロンを呼ぶときの「ポイボス・アポロン」の「ポイボス」とか。というわけで私は「二つ名」と言っています。合ってますか。間違ってたらごめんなさい。

Theoi Project内にはそんな二つ名を集めたページもあるので、パーンのそれをご紹介します。

たくさん覚えてパーンをそれっぽく呼んでみよう。創作キャラの名前を考える時にも役に立つかも。

 

出典

PAN CULT - Ancient Greek Religion

(2022/06/01閲覧)(cult titles and epithetsはけっこう下の方です

 

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ノミオス(牧草地の)

アグレウス(狩人の)

アグロタス(牧草を与える者)

フォルバス(恐れさせる者)

リュテリオス(ゆるめる)

シノエイス(いたずらな、災いの)

スコリタス(ゆがんだ)

アクロリテス(アクロリア山の)

ハリプランクトス(海を漂う)

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