オウィディウス『変身物語』
オウィディウスによる『変身物語』をご紹介いたします。
原著は紀元後8年の作で全15巻。「変身」という事象を軸に250もの物語が収められた、ギリシャ神話の集大成とも言うべき書物です。
何らかのギリシャ神話関連の本を読んでいて、出典に「Ovid, Met.」とか書いてあったらこれのことです。非常によく出てきます。
アポロドーロスのビブリオテーケーと同じと思われるエピソードも多く、細部がどう異なっているか読み比べると楽しいです。
では例によってパーンやサテュロスのたぐいが出てくる場面をまとめましょう。
テキストはオウィディウス『変身物語(上)』『変身物語(下)』(ともに中村善也訳、岩波書店、1990)です。
・巻1の180〜
リュカオンの物語。リュカオンの狼藉ぶりに耐えかねたユピテルが「地上で暮らすニンフや牧神、獣神、森神の安住を脅かさないため」にリュカオンの一族を滅ぼすことを決定します。
牧神はパーン、獣神はサテュロス、森神はシルヴァヌスと思われます。ルビが無いので憶測ですが……
・巻1の680〜
メルクリウスが百目の巨人アルゴスに対し、自らの葦笛の由来を語ります。それが有名なパーンとシュリンクスの物語。
パーンは女神ディアナに従うニンフであるシュリンクスを追いかけますが、シュリンクスはそれから逃れて葦に変身してしまい、パーンはその葦で笛を作りましたとさ。
シュリンクスはほかのサテュロスたちからもよく追いかけられていたようです。
・巻4の20〜
バッコスの行進にサテュロスたちがくっついています。かわいいね。
・巻6の380〜
プリュギアのサテュロスであるマルシュアスの物語。ミネルウァの作った笛でアポロンと音楽対決をしたマルシュアスは負けて皮を剥がれて死にます。マルシュアスの死を嘆き悲しむひとびとの中に牧神(パーン?)やサテュロスがいます。
また嘆くひとの中に「オリュムポス」という少年がいます。アポロドーロスではオリュムポスはマルシュアスの父の名前でしたね。
巻11の80〜
ミダス王の物語。まずバッコスの行進にサテュロスがくっついています。
シレノスがプリュギアの百姓にとっ捕まり、ミダスによって救出されます。その後黄金の指のエピソードになり、さらにその後に「王様の耳はロバの耳」のエピソードに。パーンとアポロンが音楽対決し、唯一パーンに軍配を挙げたミダスは耳をロバにされてしまいます。試合の様子はマルシュアスより多少詳細。
巻13の740〜
ガラテイアが語るアキスとポリュペモスの物語。
ガラテイアの恋人であった美少年アキスは牧神ファウヌスの息子とされます。変身物語においてファウヌスとパーンは別なんですね。
巻14の440〜
ラティウムに上陸したアイネイアスがラティヌス王の娘ラウィニアと妻としますが、このラティヌス王もファウヌスの息子とされます。
巻14の500〜
ウェヌルスの訪れたメッサピアの洞窟はパーンの棲家。森の陰になっていて水も湧いている素敵な場所です。もとはニンフたちが住んでいた場所でした。
巻14の620〜
ウェルトゥムヌスとポモナの物語。ハマドリュアスのポモナは色恋に興味がなく、サテュロスやパーンやシレノスなどの求愛から逃げ回っていたそうです。
ざっと通して読んだ感じはそんなところでした。抜けがあったらごめんなさい……
このたび初めて最初から最後まで通して読んだんですが(サテュロスのたぐいを高速で探していただけなのでまともに読んではいない)、今さら初めて知る話もありました。読んでおくものですね。