サテュロス、パーン、牧神、牧羊神、半獣神、ほか

サテュロスやパーンの事典のようなブログにしたいと思っています

テオクリトス 牧歌

『牧歌 西洋古典叢書 第Ⅲ記第7回配本』(テオクリトス、古澤ゆう子訳、京都大学学術出版会、2004)をご紹介いたします。

でかい本屋に行けばたいがいズラっと並んでいる西洋古典叢書のうちの1冊です。新しめの本なので図書館にもあると思います。

 

せっかくなので公式な紹介ページへのリンクをば

www.kyoto-up.or.jp

 

テオクリトスはヘレニズム時代、紀元前3世紀ごろの詩人。「牧歌」というジャンルを発明した人とされます。牧歌とは田舎の牧人たちの素朴な生活を描写した短い詩、と考えればいいでしょうか。

牧人たちの生活であるからして、そこには強くパーンの存在が感じられるのです。

 

とりあえず本の中に出てきたパーンおよびそれっぽいやつらのおもかげをまとめてみます。「パーンにかけて〜を誓う!」みたいなのは割愛。そこそこ頻繁に出てきて嬉しかったですが。

 

まずは「エイデュリア」から。

第一歌 テュルシス

名もなき山羊飼によって歌われる、伝説的牧人ダプニスの死の物語。

早くも3行目には笛の腕を褒める表現として「パーンの次に上手い」的な言葉があります。笛をせがまれた山羊飼が「いまはパーンが昼寝してる時間だから笛はやめておこう」なんてことを言ったりも。パーンの特技パニックがほのめかされていることがわかります。

また、死にゆくダプニスからパーンに贈られる言葉として「ここに来て、私の笛を受け取ってください」というものが。註によれば牧人たちは引退や死に際して、愛用の品をパーンに捧げたとのことです。

 

第三歌 セレナーデ

名もなき山羊飼がニンフの洞窟の前で歌い上げる恋の歌。

「山羊はティテュロスが見ていてくれる」といった言葉があります。「ティテュロス」というのはTheoi Projectで「ディオニュソスに従う笛吹きのサテュロスたち」として紹介されていた覚えがありますが、ここでは「牧人風の名前」としか解説がありません。なので多分サテュロスじゃないんですけど、サテュロスだったらいいのにな。

 

第四歌 牧人たち

ふたりの牧人のちょっとゲスい世間話。

好色な男のたとえとしてサテュロスとパーンが出てきました。

 

第五歌 山羊飼と羊飼

ちょっとしたトラブルを歌合戦で解決しようとする牧人たちの歌。

「この岸辺のパーンにかけて」という言葉があり、川のへりにパーンの像がある風景なんじゃないかと解説がついています。お地蔵さんのカジュアルさでパーンがいる世界、うらやましい。

あと「こっちこいや」「嫌だね俺のところの方がいいとこだもんね」「なんだとこっちだっていいとこだぞ、フカフカの山羊皮が敷いてあるしパーンに乳桶を8個捧げるくらいいいとこだぞ」みたいな言い合いがあります。よくわからないけどかわいいからいいと思います。

 

第七歌 収穫祭

収穫祭に行く途上で行き合った牧人たちがルンルン歌う歌。

また「ティテュロス」が出てきますがやっぱり「よくいる牧人」みたいなニュアンスのみです。

後半の「シミキダスの歌」ではパーンが「ホモレ(テッサリアの山と町)の地の神」と呼びかけられ、また「願いを叶えてくれるならもうあなたを海葱(ユリ科の植物、玉ねぎっぽい)で叩いたりしません!」と言われています。これもTheoi Projectで読んだ覚えがある、「狩猟がうまくいかなかったとき牧人たちはパーンの像を折檻した」というやつですね。

 

第二十七歌 愛の口説き

これはテオクリトスっぽく書かれた別の人の歌だそうです。牛飼の少年ダプニスが羊飼の少女を口説く歌。読んでる方としては口説いてるというよりすでにラブラブな二人がおたわむれを演じてるように見えますが。

少女の方が2回くらい「いやんエッチ♡」というノリでダプニスに「なによサテュロスさん♡」みたいな呼びかけをします。いいじゃん。

 

つづいて「エピグラム」。絵やレリーフなどに刻まれていた碑文などだそうで、『ギリシア詞華集』に詳しいとのことです。

 

牧人の道具を描いた絵かレリーフの碑文らしいとのこと。

引退か殉職かした牧人が、葦笛、牧杖、獣を追い払う棒、鹿皮、背嚢をパーンに捧げたようです。獣を追い払う棒だけイメージが湧きません。

 

眠る牧人をねらうパーンとプリアポス(豊穣の神)の絵に寄せられた句。のどかなんでしょうか、のどかじゃないんでしょうか。

 

何についてたかわからない句。「みんなで合奏してパーンの眠りをじゃましてやろう」と言っています。かわいい。

 

以上。

同じく西洋古典叢書で出ている『ギリシア詞華集』も気になりましたが、調べたら全4冊だったのでおののきました。

その前に次はウェルギリウスの牧歌かな、と思っております。